事業の定義は、目標として具体化しなければならない。如何に良くて来た定義であっても、優れた洞察、良き意図、良き警告にすぎない。
前章で書かれている方針や方法で、優れた事業の目的を策定しても、具体化しなければ、俗にいう「絵にかいた餅」となって、成長に結び附かないと言っています。
では、具体化とはどんなものでしょうか。見てみましょう。
マーケティングの目標
目標設定においても中心となるのは、マーケティングとイノベーションである。なぜなら、顧客が代価を支払うのは、この二つの分野における成果と貢献に対してだからである。
マーケティングの目標は一つではない。
①既存製品に対する目標
②既存製品の廃棄についての目標
③既存市場における新製品についての目標
④新市場についての目標
⑤流通チャネルについての目標
⑥アフターサービスについての目標
⑦信用供与についての目標
これらに関わる文献は数多くあるが、「集中の目標と市場地位の目標」に触れている文献は少ない。
立つ場所を確保しなければ、社会に影響を与える事ができない。アルキメデスは言った。立つ場所さえ与えられれば、私はこの地球を動かすことも出来る」と。
この立つ場所が「集中の目標」である。
集中すべき目標があることで、有意義な「われわれの事業は何か」という問いの答えを得ることができ、意味のある行動に換えることができる。
もう一つは、市場地位の目標である。独占的な地位を得たとしても、急速な市場拡大は期待できないし、市場が拡大しないと、たとえ独占的な地位を得ていても、成長できないし、成果も出ない。
市場において目指すべき地位は、最大ではなく、最適である。
多くの企業は、業界の中でのシェアー争いを繰り広げているが、集中すべき事が、収益の極限化を目指したものである場合、大きな成果は期待できない。また、独占的な市場の地位を得ると、競争原理が働かなくなり、顧客の満足を満たす新しいサービスや商品が生まれず、市場自体が発展しないため、自社も成長できないと言っています。
イノベーションの目標
イノベーションの目標とは、「われわれの事業は何であるべきか」との問いに対する答えを具体的な行動に移すために設定するものである。
いかなる企業でも3種類のイノベーションがある。
①製品とサービスのイノベーション
②市場におけるイノベーションと消費者の行動や価値観におけるイノベーション
③製品を市場へもっていくまでの間言於けるイノベーション
イノベーションの目標を設定するうえでの最大の問題は、イノベーションの影響度と重要度の測定の難しさにある。
イノベーションを目標にする必要があるが、その目標値を定量的に設定する事はできない。そもそも、イノベーションとは、将来の不確実性に基づくものでありので明確化も難しい。
しかし、常にイノベーションを意識して、目標として計画を策定することが肝要であると思います。
経営資源の目標
3種類の経営資源の獲得関する目標も重要である。
3つの資源とは、土地(物的資源)、労働(人材)、資本(明日のための資金)である。特に、良質な人材と資金を引き寄せる事が出来なければ企業は永続できない。
『引き寄せる』という点が素晴らしい考え方だと感じました。集めるのではなく、引き寄せるのです。引き寄せるために何が必要かを考え、行動する事がたいせつですね。
人材と資金の獲得に関しては、マーケティングの考えが必要である。われわれが必要とする人材を引き付け、引き留めておくには、わが社の仕事をいかなるものにするべきか」「何を成すべきか」「わが社に対する投資を魅力的にすることが出来るか」を問う事である。
これらの、経営資源に関する目標は、
①経営資源に対する自らの需要
②市場の状況を自らの構造、方向、計画との関連性
から見ていかねばならない。
経営資源は、企業の永続的発展、成長には欠かせなません。しかし、闇雲にそれらを求めても成長につながりません。
人材は、魅力的であり社会貢献できる企業に集まり、資本は、成長性のある企業に集まります。
だから、注意深く社会の動向を観察し、自社の目標を定める必要があると説いています。
生産性の目標
経営資源を手に入れるのは、企業経営の第一歩であり始まりである。それらの経営資源を生産的なものにすることが課題である。そして、その生産性の目標を持たねばならない。
企業内部や企業間のマネジメントを比較する場合、最良の尺度が生産性である。保有する経営資源が同じであるならば、マネジメントの差で企業間の差が生まれる。
生産性向上こそがマネジメントにとって重要な仕事であり、困難な仕事でもある。なぜなら、生産性とは各種の要因のバランスをとる事だからである。しかも、要因の内、定義しやすいものや測定できるものは少ない。
生産性とは難しいコンセプトだが、中心となるコンセプトである。
生産性の目標がなければ、方向性を失う。コントロールを失う。
生産性の向上は、マネージメントの根幹を成すコンセプトです。人類は常に生産性向上を目指し、成長してきました。言い換えれば、成長するということは、生産性が高まるという事だと思います。
社会的責任の目標
過去、経済学者もマネジメントも社会的な責任は無形であり、それを目標にできないというのが定説であった。しかし現在は、この無形であると考えられてきた社会的責任は、きわめて有形的であることを知った。消費者運動や、環境破壊に対する攻撃は、企業が社会に与える影響が大きい事を知るための高い授業料であった。
企業は、社会と経済の中に存在する被創造物である。そして、社会や経済は、一夜にして企業を消し去ることができる。つまり、企業が有効かつ生産的な仕事を行っていなければ存続が許されないのである。
社会性に関わる目標は、単なる良き意図の表明ではなく、企業の戦略に組み込まなければならない。マネジメントが社会に対して責任んを負うのではなく、マネジメントは、企業の存続の為に企業に対して責任を負うのである。
近年、企業倫理、コンプライアンスの重要性が言われていますが、マネジメントが出版された時代は、まだ広くその精神が行き渡っていませんでした。ドラッカーの洞察力の凄さがうかがえます。
企業は、社会の公器である。この考えは、日本の渋沢栄一や岩崎弥太郎の精神に見て取れます。企業が成長するには、社会に役立つ、貢献することが第一であるという企業理念を据える事が大切だと私も考えます。
費用としての利益
これら基本的な領域における目標を、徹底的に検討し設定して初めて「どれだけの利益が必要か」との問いに取り組むことができる。
目標を達成するには、大きなリスクを伴う。しかも、努力と費用が必要になる。ここにおいて、利益が企業の目的を達成するうえで必要となる。
利益とは、企業の存続の条件であり、未来への費用や事業を続けるための費用を賄うためにある。
目標を実現するための利益を上げている企業は、存続の手段を持っている企業である。
基本的な目標を実現する上で必要な利益に欠ける企業は、生存が危うい企業である。
この文書は、私の「企業の利益」に対する考え方を大きく変えてくれました。なんとなく「利益」は悪であり、それを目指す事は、あさましい行為だと考えてたのです。
しかし、この文書を読んで、十分な利益が、企業の目的(社会的に意味があり、貢献する事)を達成させるための条件であることを知りました。
私の先入観は、企業倫理がない企業が、利益優先で環境問題を引き起こしたり、不正行為を行ったりする企業が目立っていたためだと思います。
目標設定に必要なバランス
目標を設定する場合、3種類のバランスが必要である。
①利益とのバランス
②近い将来と遠い将来とのバランス
③他の目標とのバランス
何もかもできる組織はない。金があっても人がいないなどがある。
優先順位が大切である。あらゆることを少しずつ手掛けることは最悪でり、いかなる成果もあげられない。
だから、間違った優先順位でも、ないよりはましである。
この主張こそが、ドラッカーの現実主義的な側面をあらわしていると思います。何が正しいか分からない不確実性の時代において、まずは、やってみることが大切だと言っています。そして、行ってはいけない事は行わないという厳格さも感じます。
「バランスをとる」ことは、試行錯誤であり、ベストな答えは無いのだから、最良と考える事に集中しなさいと示唆しています。
実行に移す
最後の段階が、目標実現の為の行動である。
目標を検討するのは、知識を得る為ではなく、行動するためである。
目標を検討するのは、組織のエネルギーと資源を正しい成果に集中させるためである。
目標の検討の結果は、具体的な目標、期限、計画であり、具体的な仕事の割り当てである。
目標は、行動に移さなければ目標ではない。夢に過ぎない。
なかなか耳に痛い言葉です。
良い事は分かっているし、なりたい自分の姿や、行わなければならないことは分かっている。でも実行しなければ、夢に終わってしまう。
実行、行動が、夢を夢で終わらせないための条件なのですね。たとえ失敗しても、失敗の原因を知ることができ、実現へ一歩近づいたことになる。(Byエジソン)
さて、いかがだったでしょうか。これで本書の36ページまで進みました。
私が感じている事は、マネジメントは、会社のような組織だけではなく、セルフマネジメントにも通じるところがある点です。
正しい思考で、正しい計画を立てて、優先順位を付けて実行すれば、必ず成果につながる。
これからも、そう生きていきたいものです。
次は ⑤戦略計画 です。お楽しみに。
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