⑥多元社会の到来
現代社会の成長部門
現代社会において、企業は、組織の一つでしかなく、企業のマネジメントだけがマネジメントではない。政府機関、軍、学校、研究所は、いづれも組織でありマネジメントを必要としている。
これら企業以外の組織、すなわち、公的機関こそが現代社会の成長部門であり、これらを含む多元社会の時代が到来した。
企業内においては、成長部門はサービス部門である。サービス部門のスタッフは急増しており、これらを成果を上げるべく、マネジメントが必要である。
マネジメントは、企業にのみ必要であるかの如く誤解されていたが、実は、あらゆる組織や、サービス部門でも必要とされる機能である。その中でも、公的機関のマネジメントが特に遅れている。
サービス機関が成果を上げる方法
サービス機関は、公的機関であれ、営利企業であれ、経済活動から得られる余剰(利益)により、発生するコストを賄っている。
現代のサービス機関は、過去のように「お飾り的な存在」ではなく、社会の支柱である。社会の構造を支える一員であり、サービス機関が成果を上げなければ社会の発展はない。
しかし、公的機関の成果は、組織が巨大化しており、予算も巨額に及ぶ。予算は増々膨れ上がり、しかも危機に瀕している。過去は、公的機関の活動が問題になることはなかったが、今日では、その活動の不振が社会からの攻撃の的となっている。
しかし、公的機関、学校や病院などは、不振を理由に廃止される可能性はない。つまり、公的機関の貢献が不要になった訳ではなく、サービスの質の向上を望まれているのである。
われわれの選択肢は、サービス機関が成果をあげるための方法を学び、サービス機関の成果を上げるためのマネジメントを導入することなのだ。
学校や病院など、現代社会に無くてはならないサービス機関にマネージメントが導入されていない状況は看過できない状態にあります。
⑦公的機関不振の原因
三つの誤解
公的機関不振の原因として以下の3つが上げられるのが常であるが、いづれも誤解である。
①公的機関は企業と同様のマネジメントを行えば成果が上がる。
公的機関の不振の原因は、目的をコスト管理であると誤認している点にある。公的機関は、効率ではなく成果が必要なのである。
公的機関の問題の根本は、「コスト意識の欠如」にあるのではなく「成果をあげられないこと」にある。つまり、「成すべきことをしていない点」が問題なのである。
②人材がいない事が不振の理由である。
企業の有能な人材を公的機関に投入しても、彼らが即座に官僚化してしまい、機能しなくなる。よって、人材がいないのではなく、人材を活かせていないのである。
③目的と成果が具体的でない。
もっともらしい言い訳として「公的機関の目的と成果が具体的でない」というものがある。そもそも組織における目的の定義は具体的ではない。
例えば、教会が「魂の救済」とい目標を定量的に把握する事は出来ないが、教会に集う人々の人数は把握できるだろう。その内に若者が何人いるかも定量的に把握できる。
学校でも、全人格の発達という具体性の欠ける目標であっても「3年生までに全員独力で本よ読めるようにする」という目標は、具体的であり、測定可能であり、かつ、正確に把握できる。
いかなる組織も目的と成果は具体化できる。
公的機関と企業は何が違うか
公的機関と企業の基本的な違いは、支払いの受け方にある。
企業は、顧客を満足させることによって支払いを受ける。
一方、公的機関は、予算によって運営され、成果や業績に対して支払いを受けない。
このような状況は、企業内のサービス部門(バックオフィース)にも言える。
よって、企業内サービス部門と公的機関は同じ性格を持ち、同じ行動をとる。
予算から支払いを受けるという事が、成果と業績の意味を変える。予算型の組織では、成果とは「より多くの予算を獲得する事」である。業績とは「予算を維持、又は、増加させる事」ことである。従って、「成果」とい通常の言葉の意味である「市場への貢献や目標の達成」は二義的になる。
予算の獲得こそが、予算型組織の成果を測る第一の判断基準であり、存続のための第一条件となる。予算は、貢献を意味するものではなく、目論見に関わるものに過ぎない、自己保全のためのものとなっている。
予算型の組織では、その組織の存続自体が目的となり、活動による成果は二義的な扱いになる。実際、企業のサービス部門にいた私も、実体験から合点のいくところです。
成果を上げるなかれ
如何に公的機関に対して成果について説いても、予算型組織では効率やコスト管理は美徳ではないとの考えは変わらない。
予算型組織の地位は、予算の規模と人数で測られる。より少ない予算と人員で成果を上げても業績とは認められず、逆に組織を危うくさせる。予算を使い切らなければ、翌年の予算を減らせることができると誤認され、結果的に組織の縮小に至る。
予算に依存する組織では、優先順位を付けて活動を集中する事を許されない。成果を上げるために、優先順位を決めて資源を集中させなければ成果は出ないのだが、間違ったもの、古くなったもの、陳腐化したものを廃棄できない。その結果、公的機関は、非生産的な仕事を持つ者を大勢抱えることになる。
いかなる組織・企業も、今行っている事を廃棄する事を好まない。しかし、企業の場合、成果と業績により支払いを受けるため、不合理な仕事を残すことにより生産性が落ちたために、市場から退去命令が出されるため、必然的に不合理な仕事は廃棄せざるを得ないことになる。
非生産性を招く事を防ぐには、あらゆるサービス機関は、「現在行っている事は、近いうちに廃棄すべきことである」と考えなければならない。
予算型の組織では、成果を上げることが組織の存続を危うくし、改善の足かせになる。ゆえに、どうしても非効率的になり、成果を上げることが出来なくなる。
⑧公的機関成功の条件
六つの規律
①「事業とは何か、何であるべきか」を定義する。
目的に関わる定義をを公にして、徹底的に検討し、一見矛盾する定義も採用しバランスを図る。
②その目的に関わる定義に従い、明確な目標を導き出す。
③活動の優先順位を決める。
目標を定め成果基準(最低限必要な成果)を規定し期限を決めて実行し責任を明らかにする。
④成果の尺度を定める。
例として顧客満足度や国民の識字率などがある。
⑤尺度により成果を測り、結果をフィードバックする。
成果・結果による自己管理(PDCA)を確立する。
⑥目標に照らして成果を監視する。
目的に合致しない目標や、現実不可能になった目標を明らかにして捨て去る。
恒久的な成功はあり得ず、成功は失敗より捨て難い。成功は愛着を生み、思考と行動を習慣化させ、過信を生むためだ。
意味を失った成功は、失敗よりも害が多い
公的機関であっても、「マネジメント」の手法が有効であり、活用しなければならない。
ここで、重要なのは、成功体験は、進歩にとって大きな害を与えるということ。失敗は「何をすれば悪い結果を生むか」を端的に学ぶことができるが、成功からは何も学べない。偶然を必然と勘違いして、「株を守りて兎を待つ」のことわざの例となる。
公的機関の種類
公的機関が成果を上げる上で必要なのは、偉大な人物ではなくて、仕組みである。企業が成果と業績をあげる仕組みと似ているが、適用の方法が違う。それは、成果の意味が違うからである。
さらに、仕組みの適用は、公的機関の種類により異なる。種類には大きく分けて3つある。
①自然的独占事業
電話事業や電力事業など、地域内に置いて排他的な権利を持たざるを得ない事業をいう。
この事業に必要な事は、「企業が行っているすべてを意識的に体系的に行う」ことである。
つまり、民営化を目指すべきである。
②予算から支払いを受けている公的機関
公営の学校や病院がこの例であり、企業内のサービス部門は全てこの部類に入る。
この種の公的機関はの顧客は、本当の意に出の顧客ではない。むしろ拠出者である。
これらが生み出すものは、欲求の充足ではなく、必要の充足である。
この種の部門は、成果について最低限の基準を設けなければいけない。
マネージメントは独立している事が望ましい。
すでに我が国では、国鉄や電電公社などが民営化されているが、将に自然的独占事業の効率化を目指し、赤字体質から脱却できた理由がここに書かれている。
また、社内サービス部門でもサービスの利用を強制することなく、社外のサービスと競合させることも有効であると記されている。私も、社内サービスと社外サービスをコンペ対象にしている企業を複数しっている。それらの企業では、サービス部門も成長を遂げている。
行政組織
③国防や司法などの政府機関を始め、伝統的な政治学における行政組織が殆どが含まれる。
この種の公的機関では、独立したマネジメントはあり得ない。競争は可能だが、望ましくない。
政府のもとに置き、政府の直接の運営に委ねねばならない。
行政組織は、社会の中核的な存在であり、大きなコストもかかる。従って、行政組織の「目標」と「成果」は、監査が不可欠である。
さらに、あらゆる行政組織と立法行為が恒久たり得ないという事を認識すべきである。新しい活動や機関、計画は期間を限り、その間の成果によって目的と手段の健全性さが証明された場合のみ延長を認めるようにしなければならない。
公的機関に必要なのは、企業のまねではなく、自らの特有の使命、目的、機能について徹底的に検討する事である。
行政組織において必要なのは、競争ではなく、合目的性であり成果である。いかなる組織や機関は恒久的に存在するわけではなく、監査を受け、必要性と健全性が確認できない場合は廃止すべきでしょう。
最近のユースでは、「学術会議」の是非が取り上げられていた。現在は、マスコミで取り上げられることが無くなったが、将に、必要性と健全性の観点から評価すべき事案だと思います。
これで第二章が終了しました。
公的機関も、マネージメントを取り入れることで、経済的な不合理を防ぎ、組織の健全化を図り、成長できる組織に生まれ変れると説いていましたね。
この章を読んで、もっと世間一般の人々がマネージメントについて学び、そして、行政の無駄や無理を正してゆくべきだと感じました。
次は、第三章 仕事と人間 になります。
マネジメントの第二の役割である、働く人に成果をあげさせる点にスポットライトを当てています。
是非、お楽しみに。
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